非モテとモテは、与えられるものではなく、選ぶもの。
「怒ってるの?」
「いや、怒ってへんけど、ごめん、もう会えへんかな」
「会ってもくれないの?2年も付き合ったのに、そんなあっさり。。。」
「好きな人できてん、ごめんな」
「またご飯でも行こか!」
「そうですね! 他誰誘います?」
「ちゃうちゃう、二人やけど!」
「そうなんですね! 分かりました!」
金曜日。
会社が終わり、いつものようにカフェで勉強しようと思っていたおれは店の前で足を止め、地下鉄のホームに向かった。行きつけのスタバのお気に入りの女の子に会うためだ。ここ数ヶ月、土日はほとんどこのスタバに寄っていて、その子もほぼいつもバイトに入っていた。
「いっつも入ってますよね! 社員ですか?」
「違いますよ 笑」
はじめての会話だった。それから数ヶ月、行くたびに一言二言、会話するようになった。
「フィローネってめんどくさいですか?」
「めんどくさくない!」
「じゃぁそれで、味はお姉さんおすすめのやつで!」
その子はマドンナ的存在だった。圧倒的に看板娘だった。小柄で元気でおしゃれなショートヘア―の女の子。何より破壊的な笑顔。おれもその凶器に刺されていた。好きだった。
この2週間、はじめて彼女は土日に2週連続で姿を見せなかった。当然会えると思っていたし、会いたいと思っていたおれは、落ち込んだ。
そして水曜日と金曜日、3週連続で土日に会えないのは辛すぎるという衝動で、今まで行ったこともないのに、向こうからしたら不自然なのに、平日の夜にスタバに走った。職場ではノーネクタイなのにおしゃれなネクタイをしめた。金曜日。いた。
話しかけられるのは彼女がレジの時だけ。窓ガラス越しの彼女の姿を確認する。チャンス。目の前で男性店員に変わる。5分前に牛丼を食べたが、フィローネを頼んだ。いらない。再びチャンスを伺う。いける!また男性店員と変わる。今度は通り過ぎてトイレに向かう。髪を直し、ネクタイを直した。セリフを反芻する。よし、いる!いける!
「平日も入ったはるんですね~仕事大好きじゃないですか!」
「そんなことないですよ~」
「よかったら、今度二人でご飯行きません?。これLINEなんで連絡ください。」
「え! あ、え、ありがとうございます。」
勝ちを確信して帰った。ついに言えた高揚感と爽快感でいっぱいだった。彼女とどこでデートするか考えた。やっぱりおしゃれな店が似合うな。
でも違った。あんなに仲良く笑顔で話してくれて、特別な感じを抱いていたのに、違った。「ごめんなさい」、すらない。土日が終わっても、彼女から連絡は一切なかった。行きつけのスタバをひとつ失った。何より、本当に、2週連続で土日に会えないだけで、胸が苦しくなるような、店の近くを歩いては彼女を探すような、甘酸っぱい想いをさせてくれるような女の子を、失った。数年ぶりに、好きだと思った女の子に、無言で振られたのだ。
これが、非モテである。
土曜日。
サークルのOB会に参加した。現役生とおっさんのジョイントがおれの役割だ。おっさん数人の中に会社の上司がいて、飲み会では完全に世話役をせざるを得なかった。
0時。おっさんが帰った。現役の男2人、マネージャー3人とおれの6人で、やっと気の遣わなくてよい、自分が一番上の立場での飲み会が始まった。マネージャーはおれが卒業してから入った子で、正直あまりしゃべったこともなく、下心もなく、おれはおっさんの世話が終わった開放感をただ味わいたかった。女の子を雑に扱った。
テーブル席で、おれの右横にA子、その右横にB子、反対側にもう3人という配置。
19時からその日は始まっているということもあり、全員そこそこに酔っぱらっている。方や、おっさんの世話をしていたおれは、それほど酔っていない状態で、3人の女の子に酒を進める。もちろん一緒におれも飲む。
まず、A子がきた。彼氏がいたことがない処女らしいが、おれに腕を絡ませてきて、ももをさすってくる。べろべろである。おれは頑として興味がないそぶりをする。真正面を向きながら、そのまま何事もないかのように話し続けた。
A子がトイレに行き、B子が横に来た。この女もそこそこべろべろだ。全く同じように腕を絡ませてきて、ふとももさすってくる。流行なのか。
手をつなごうとしてきたので、振り払って、太ももをなでた。あえいだ。
もう、みんな酔っぱらって気付いていないくらいだったが、あえいだ。
限界なので、帰ることになった。マネ3人はB子の家に泊まることになっていたが、B子ともうひとり(C子※心が綺麗な子。それ以上は言わない)はつぶれていて、結局その2人と復活したA子と家が近所のおれの4人でタクシーに乗った。
B子の指示で家の前に止まった、と思いきや、なぜか歩いて2分のところに停車。A子がC子を1人で運べないから、おれが先にB子を部屋に入れ、二人を迎えに行くことに。
深夜3時、誰もいないくらい路上をふらっふらになりながら、歩く。
もうさ、どう考えてもセクシーな展開やんけ。
おれもけっこう酔っぱらっていて、めんどくさい理性くんを自動的に葬り去っていた。家の前の路上でDキス。凄く自然な感じだった。数時間前に初めてまともに話した女の子と、路上で激しくDキスをしているなんて。なんで抵抗もされないんだろう。家に着いた。部屋に入って、寝かせてあげて、Dキス、CT。全く抵抗がない。きつく抱きしめてくる。応じる。そしてパンツを脱がそうとした。
ピンポーン。
復活したA子は、手ごわかった。C子を抱えてやってきた。B子は記憶があるのかどうなのかっていうくらいの状態だったので、5秒前まであえいでいたけど、もう寝ている。
さすがに2人を迎え入れた。どうやらA子が財布を無くしたらしい。銀行に電話をし始めた。おれも酔っぱらって疲れた。寝ようとしたとき、B子がおかしい。
手足のけいれん、不安定な呼吸。過呼吸だ。
たまたまどこかで知っていたが、過呼吸に接したときは、30分くらいでおさまるから、あわてずになだめてあげる、というのが良いらしい。
酔っぱらっていたせいで、さっきまでまさぐりあっていた女の子をなだめるにはどうしたらよいか、なんて考えるまでもなかく体は動いていた。抱いた。キスした。「大丈夫大丈夫。」耳元でささやいた。それを30分続けた。
過呼吸はおさまった。すやすや眠るB子を見て、死なへんくてよかった~と、おれとA子。そのままみんなで寝た。
朝、3人が起きて、二日酔い以外無事なのを確認して、帰宅した。おれといちゃこらしてくれたB子は彼氏と朝からデートなので弁当を作るらしい。
A子から怒涛のLINEが来る。好きです、と書いてある。B子ではなく、A子である。
これが、モテだ。
日曜日、夜。
「怒ってるの?」
「いや、怒ってへんけど、ごめん、もう会えへんかな」
忘れていた。そろそろ二年になる彼女である。スタバのお姉さんに恋し、土曜日に楽しい夜があり、忘れていた。まめに連絡を取っていたけど、しばらく無視していた。正直倦怠感が少しあった。けど惜しい気もしていた。いつものやつだ。いつもだったらまたこじらせてた展開だ。でも、今回は違った。おれの判断は早く固いものだった。
「会ってもくれないの?2年も付き合ったのに、そんなあっさり」
「好きな人できてん、ごめんな」
この数週間があまりにセンセーショナルだった。ステディに依存するのはやめよう。新規のスリル、興奮を知った。非モテとモテを実感した。アルファぶるというマインドセットがいかに大切か、分かった。女は、女にもてる男が好き、ということも分かった。女も浮気をするし、ヤりちんが好きなのだ。
土曜日の夕方まで、正直スタバのお姉さんに振られたことにめちゃくちゃ落ち込んでいた。しかし、日曜日の朝の爽快感は素晴らしいものがある。これが自己効力感というやつか。そしてそれはモテスパイラルを生み出す。
「またご飯でも行こか!」
「そうですね! 他誰誘います?」
「ちゃうちゃう、二人やけど!」
「そうなんですね! 分かりました!」
これはB子とのやり取り。彼氏と朝から夜まで車を借りて日帰り旅行デートをしてきた直後のLINE。予習済みの中間テストを華麗に突破し、LINEのガイドラインに沿って返事をする。
これは、あまりにセンセーショナルな休日をきっかけに、外部恋愛市場へ勇んで参入した恋愛戦士の自叙伝のまえがきだ。
ブログを書くのは人生で初めて。大きな一歩である。つまり、覚悟である。これまで1年半、恋愛工学を受講してきたが、内部恋愛市場でのフレンドシップ戦略に終始していた。それなりの成果はあった。しかし、出会いエンジンに欠けるこの戦略ではどうしても非モテがバレる。内部を荒らすのはコリレーションリスクが高く、EVがプラスにならない。そして、こちらから別れて欲しくないと迫るような別れを迎える。むごいのだ。
なのに、この外部恋愛市場の気持ちよさはなんなんだ! これまで学んだ理論で武装し、出会い、なごみ、収穫する、このプロセスをクリアしていくゲーム性の高さと、なにより、セックスである。テストステロンが分泌され、自信がつく。人生が好転する。ほんとうに。
これまでの人生、彼女はだいたいいつもいた。でも非モテだった。街を歩けば、かわいい女の子をエロい目で見ていた。見過ぎて嫌な顔をされるくらい、見ていた。こんな女の子をセックスできたらなー。街を歩いてもAVを見てもそう思う。でも、怖いから、平均的な彼女で満足、ということにしていた。でもそれは、うそだ。それがフラストレーションだった。
ついに、重い腰をあげることにした。外に出るのだ。モテるために。そして、世の女の子を救わねばならんのだ。GoodDadな彼氏に隠れて、B子がGoodGenesと認定してくれたように、白馬の王子様として、フィールドに君臨するのだ。月並みだが、これは決意表明なのだ。具体的な目標はまた考える。とにかく、今のこの高揚感を文字として残すために、情緒的に書き綴った。いつかこのスタートに戻ってきた時、すべてを思い出すために。